マダム瑞樹のサロン
健全な(?)大人向けの小説などちらほらと紹介していく予定。適度な性表現も含まれる予定なのでアダルトのジャンルにしましたが、出会い系サイトではありません。
vol.9 つかの間の休息
これはすでにSMプレイのレベルを超えている。れっきとした拷問だ。一休殿、また試練を呼んでしまったな。あなたの忍耐強さが、ますます過激な試練を呼んでしまう。普通の、並の少年なら、限界よりはるか以前にギブアップを叫ぶ。だからS役は、あえてそれ以上の試練を課し、限界ぎりぎりに導く。しかし、一休殿はこちらが導かずとも、自ら限界ぎりぎりまで踏み出してしまう。あるいは、すでにもう限界を突破しているのではあるまいか? 一休殿のお身体、大丈夫なのか? もともと、体力・筋力に自信のあるマッチョなお方ではない。常に気力でカバーしているに過ぎぬ。ほんとうに、大丈夫なのか? 本郷はふと不安に感じてマダムにちらりと視線を走らせた。

マダムも正直、不安を感じていた。ちょっとやりすぎたか、と思わなくもなかった。相手の体力も体質も性格も能力も未知数の初対面で、ここまで突っ走るのは通常ではありえなかった。この子にここまで負荷をかける危険性は重々承知していた。しかし、その常識的な判断を捨ててまで、やってみたいと思わせる、何かがあった。この子の目の中に、それを感じた。いざとなったら、私はすべての責任をとろう。そう簡単にとれる責任ではないにしろ、私は誠心誠意、この子の行く末に責任を持とう。

筋肉や腱にそうとうなダメージを与えるのは、もう覚悟の上だった。今一休は、もっと深刻に身体を壊してしまう恐怖、腕がすっかり伸びきって肩から抜けてしまう恐怖と、戦っていた。肉体が、かなり限界に近づいているのはわかっていた。今、ぎりぎりのところでふんばっていた。汗だくになって、必死になって、身体は戦っていた。腕が外れまいと、ぼろぼろの筋肉が、悲鳴を上げつつ、まだ戦っていた。そうだ。身体は誰に命令されるでもなく、自己保存のために、本能的に、戦っているじゃないか。この痛みは、悲鳴は、戦いの雄叫びじゃないか。最後の最後まで、きっと諦めずに、戦っているじゃないか。けなげに、オレの、身体は・・・。だから、オレも、くじけるな・・・くそっ!
今一度、しびれて感覚のなくなった指先に、力を込めようとした。歯を食いしばり、拳を握ろうとした。重力に逆らって、重りに逆らって、腕に力を込め、身体全体を持ち上げようとした。腕を外して、なるものか!

「よし! 30分。ゴン!」
マダムの声が飛ぶより早く、本郷はチェーンの操作を開始した。できるだけ速く。いや、一休殿に衝撃を与えないように、優しくそして速く、一休殿を地上に、お戻しせねば!

マダムの声が聞こえていた。チェーンが頭上できしみながら滑車を通り、身体がゆっくりと下に下がっていくのを感じていた。足枷が足首に食い込むほど重りが負担をかけていたことを、その重りの負担が消えた今になって、やっと気がついた(それまでは、そこら中の痛みがうるさくて、足首の痛みなどほんの些細な問題だった)。そしてやっと地に足がつく。まっすぐ立てるか? 心配する必要はなかった。マダムが優しく身体を受け止めてくれた。

「よくがんばったわね。ご褒美に、30分だけ、休憩をあげましょう。そしたら今度は上半身を脱がせなきゃね♪」
マダムは女神のように慈愛に満ちた微笑みを浮かべた。
vol.10 無謀なマゾ?
抱きとめた瞬間、一休の身体が想像以上にダメージを受けていることがわかって、マダムは唖然とした。こんなになるまでがんばる子なんて、通常ではありえない。この子の、この子のSOSの発信を待っていたら、とんでもないことになる・・。マダムは、一休相手にSMプレイすることの危険を改めて認識した。
一休は、もう自分で自分の身体を動かすのもままならない状態になっていた。汗は異常なほど身体から吹きだし、過酷な状況から一気に解放されたせいで、全身に震えがきはじめていた。

一休が地に足をつけたその直後の状態のままで、マダムはとにかく、一休をしっかり抱きしめ続ける。本郷がすばやく駆け寄り、まず一休の足下にしゃがみ込んで、足枷から重りを取り去った。そしてちらりと一休の頭上を見上げた。
今、チェーンブロックのフックは、一休殿の腕をゆるく上に持ち上げているような状況である。すぐに手枷の環をフックから外したいが、万が一、一休殿が立っていられないような状況の場合、皮肉にもこのフックが一休殿を支えてくれる。一休殿は華奢ではあるが、最悪の場合、マダムは一休殿を支えていられるか?

本郷が頭上に視線を走らせ、そして、マダムをちらりと見たのを、マダムも気がついていた。
「外して。私が支えてるから」
本郷は頷いて、一休の手枷の環を、すばやくフックから外し、一休を挟んでマダムとは反対の位置、一休の背後に立って、いつでも支えられるように待ちかまえた。

しっかり優しく抱きしめ、背中をなでさすりながら、マダムは一休の瞳を見つめた。一休は今、なんとか自分を正常な状態に近づけようと、歯を食いしばって呼吸調整をしている。荒い呼吸を、なんとか元に戻そうとしている。それとともに身体の興奮を静めようとしている。たいしたものだ。身体は激しいストレスにさらされていても、心は冷静であった。
過度に優しくしてはいけない。今は仕置きの真っ最中だ。マダムは心を鬼にした。

「大丈夫ね? 立っていられるわね?」
「はい・・」
荒い呼吸の中で、一休はしっかりと答えた。マダムはゆっくりと、抱擁を解く。そしてフックから外されたその状態のままで一休の頭の上に乗っていた一休の両手に、慎重に手を伸ばした。背後の本郷は、肩の具合を心配するように、そっと一休の両脇に手を添えた。
おそらく、指先はすっかりしびれてるはずだ。マダムは一休の両手を優しく包むように握りしめた。
「腕、動かせる?」それとも私が、ゆっくりおろしてあげましょうか? とマダムが提案するより前に、一休は気合いを入れるようにひとつ深呼吸すると、マダムに微笑んで言った。
「なんとか、動かせると、思います」
痛みをこらえているのかかすかに顔をしかめ、浅い呼吸を繰り返しながら、一休はゆっくりと腕をさげた。正直、まだ腕には力が入らないはずだ。マダムは一休の両手をしばらく離さなかった。上腕がけいれんをおこしている。本郷がすかさず、左右の上腕を背後から握って支えた。

マダムは苦笑する。
「まったく無謀なマゾだこと。さっさと降参すれば、私も許してあげたのに。そうとう筋肉を痛めてしまったようね。しばらく辛いわよ。覚悟してらっしゃい。でもまあ、自業自得ね」
「はい」
一休も苦笑で返した。
「だからといって、これでやめないわよ。おまえも承知の上で吊られたんだから、甘やかすつもりはないわ。いいこと?」
「はい」
「じゃあ、30分の休憩。ゴンを側に置いておくから、少し、この部屋でくつろいでらっしゃい。ベッドもあるわよ♪」
確かに、ベッドはあった。両手両足をすぐに拘束できるようなチェーン付きのベッドが。
マダムと一休が同時にベッドに視線を走らせる。いっそ、ベッドに拘束して放置しようかしら。ふとマダムは思ったが、さすがに止めておいた。一休も、マダムの視線に何かを感じたのか、ちょっと微笑んだ。そんな一休を軽く睨んで、マダムは二人を残し、軽やかに部屋を後にした。
vol.11 S二人にMひとり
まったくなんて子だろう。
部屋を後にしながら、マダムは先ほどの一休の微笑みを思い出していた。ベッドに視線を走らせ、そして微笑んだ。あれはまるで共犯者の微笑みだ。あれほどのダメージを受けた直後だというのに。並の神経ではあの表情はできない。
マゾヒスティックということは、つまりは自分を対象にサディスティックになっているということだから、Sの私と共犯者であると言えなくもないのだが、それにしても・・まるでSのあの子と、Sの私、二人がかりで、Mのあの子を虐めているようなものじゃないか。もしかしたら、あの子のほうが、私よりよほど残酷かもしれない。これではMのあの子が可愛そうだ。
マダムはちょっと一休に同情した。

「まったく・・」
本郷が言いかけて、二の句が継げないといった表情で一休を見つめた。
「わかってます。心配をかけてすみません」
一休は苦笑して、ほんとうに申し訳なさそうに、本郷に頭を下げた。あまりに素直に謝られてしまったので、本郷はそれ以上、きつく言えなくなってしまった。
それに、わかっていながらあえて突き進むのが一休殿である。もし言って効果があるものなら、本郷は言いたかった。・・こんな調子では、本格レッスンの前に、マダムにぼろぼろにされてしまいますよ。少しはマダムを適当にあしらうというか、時々は手を抜きなさい、常に全力疾走では身が持ちませんよ、と。
しかしそれは無理な注文であろう。一休殿は常に真剣勝負だ。マダムを適当にあしらうなどということはきっとおできにならないであろう。どんな時も、どんな相手にも常に真摯に立ち向かう。それにおそらく一休殿は、これらすべてを、己を鍛えるレッスンとして、一切手抜き無しの覚悟で取り組んでおられるに違いない。
そしてそんな一休殿を、私も本音では好ましく思っている。だから私は、一休殿が果敢に突っ走っていくのをどうも止めることができない・・。

一休はといえば、まだしびれのある両手を握りしめ、腕の震えを押さえるように胸にぎゅっとあてている。まるで純情な乙女が祈りを捧げてでもいるような一休のその仕草に、本郷は思わず苦笑してしまった。ほんとうは笑い事ではない。たぶん、そうとう痛みをこらえているのだろうが、一休はその辛さをいっさい表情に出していなかった。

「少しベッドで休みますか? せめて腰を下ろしては? あ、座るとお尻が痛いかな?」
「そうですね。試しに、座ってみます」
本郷の提案に、一休も頷いた。マダムに与えられた30分という限られた休憩時間を有意義に使って、なるべく身体を休めるべきだと一休もわかっていた。
一休はゆっくりと、ベッドに向かって歩き始める。足下がぎこちない感じで、一歩一歩慎重に歩を進めている。長時間、同じ姿勢を強いられていたので、身体全体がまだ突っ張ったような感じなのかもしれない。でも一休が助けを求めるようなそぶりを見せないので、本郷は手を貸すことをしなかった。
ベッドサイドに辿り着くと、気持ちを落ち着けるようにひとつ深呼吸して、ゆっくり腰掛けた。お尻がマットレスに触った瞬間、かすかに顔をしかめたが、なんとか我慢できる程度だったのだろう、痛みに怯んで立ち上がったりはしなかった。


「何が一番辛かったですか?」
本郷の問いに、一連の出来事を回想するように少し遠い目をして、一休はぽつりぽつりとつぶやく。
「ムチは・・・その瞬間は確かに辛かったですが、耐えられない痛みではなかった。やはり重りの負荷をかけた状態で吊られたのは、最後の方は、正直、肩が・・腕が抜けそうで怖かった。つくづく、自分の体力、筋力のなさを思い知らされました」

「そう、あなたの筋肉はまったくヤワだ」
本郷は情け容赦なく言う。事実、まったく同条件で同時間、宙づりにされたとしても、筋肉質でタフな本郷なら苦もなくこなしただろう。本郷は一息おいて、話を続けた。
「それが心配なのです。目にはっきり見える外傷とは違って、内臓や筋肉のダメージは、あなたが訴えない限りマダムには伝わらない。あなたが内面でどれほど苦痛にあえいでいても、声に出さない限り、それはわからない。あなた自身が限界を見極めるしかないのです。たぶん、あなたの精神の強さにあなたの身体が追いついていない。あなた自身があなたの肉体に強いる過酷な試練に、あなたの肉体が悲鳴をあげている。あなたの魂はもっと強靭な肉体に宿るべきだったのかもしれません」

本郷の最後の言葉に、一休の内心が、魂の奥底の潜在意識がどきりとした。おお、そうだ。オレはもっと強靱な肉体を持っていたその時(前世)の魂のままなのかもしれない。格段にヤワな、今の肉体を、ついつい忘れがちなのかもしれない。だからこそよけいに、オレの魂についてこられない今の肉体が歯がゆいのかもしれない。
しかし、オレの魂は、あえて、この軟弱な肉体を選んだのではなかったのか? この選択自体が、自己に課した試練ではなかったのか? 強靱な肉体ならなんなくこなせることが、この軟弱な肉体では、歯を食いしばりのたうち回ってこなさねばならぬ。軟弱な肉体のぶんだけ、より強い精神力を必要とする。同じ重りでも、倍以上の負担を感じる。だからこそ、オレは、この軟弱な肉体を、ありがたく思おう・・・。
vol.12 下半身の次は・・
「さあ、30分たったわ。再開するわよ。坊や、いけるわね?」
颯爽と入ってきたマダムが、一休に冷たいほどあっさりと言った。
「はい」一休はベッドからすっと立ち上がり、ためらうことなく即答する。その強い瞳を見てマダムは内心ほっとした。先刻の仕置きで受けたダメージを30分程度で取り除くのは無理だろう。しかし彼はまだ、受けて立つ気だ。ならば私も強気でいく。Mの素質十分のこの子を、優しくいたわるつもりはない。

この子は素晴らしく純度の高いはがねになる。だから、真っ赤に熱して徹底的に叩く。叩きのばし、折り返し、鍛錬を繰り返す。不純物を徹底的に追い出し、そしていつしか強靱なはがねになる。
強靱であるということは、たんに堅い、という意味ではない。ただ堅いだけでは案外簡単にぽきりと折れる。しかし、真に強靱ならば、ときに柔らかくしなり、それでも折れないで持ちこたえることができる。だからといってただ柔らかく攻撃を受けるだけではない。いざとなれば鋭く切り返すこともできる。まさに切れ味のよい刀身だ。この子は、激しい鍛錬に耐え、みごとな刀身になるだろう。

正直、一休にとって30分はあっという間で、身体はまだぼろぼろの感じだったが、弱音を吐くつもりはなかった。どんな試練が待っているかは知らないが、やる前から弱気になってはいられない。とにかく一歩でも、いや半歩でも足が出る気力があるならば、前に進み続ける。無謀な行為かもしれない。本郷さんが言うとおり、オレの意志が行けと叫んでも、オレの身体が悲鳴をあげてへたり込むかもしれない。でも、今のところは、まだ気絶もしてないし、こうやって二本の足で立っていられる。まだ、限界ではない。

ベッドサイドにしっかりと立つ一休に、マダムは歩み寄り、鋭い目で全身を一瞥した。
「・・さっきは両手を吊って、下半身を脱がした。今度は上半身の番ね」
マダムは意味深な目つきをして微笑む。まるで一休のその先の姿を目に浮かべているように、楽しそうに微笑んだ。そして本郷に視線を転じ、ひとこと鋭く命令した。
「ゴン、マットレスを中央に」
本郷は、マダムの命令が意味するところを瞬時に理解する。先ほど一休が宙づりにされていた、チェーンブロックの真下に敷けということだ。そしてこの指示は、これから何が行われるかを本郷に推察させるに十分であった。そして、側で聞いていた一休も、ぼんやり想像がついた。

「さあ、坊や。おまえはなかなか利発なようだ。どうやって上半身の服を脱がされるのか、見当がつくかい?」
マダムは一休に優しく微笑みかける。一休もほんのり苦笑した。
「逆さづり、ですか?」
「やっぱりおまえは、あたまがいい子だねえ。可愛いよ」

マダムは一休の頭を、髪の毛がくしゃくしゃになるほど荒っぽい手つきでなでた。そして、あごの下に手をもっていき、ぐっとあごを引き上げるようにした。ヒールを履いたマダムの方が、数センチほど一休より長身だったので、これでちょうど視線と視線が絡み合った。
マダムは一休の瞳に、おびえのかけらでもないかと探したが、そこには静かな決意しか見て取れなかった。逆さに吊られる経験など、未だかつてないであろうに、怖くはないらしい。まったく、この子を怯えさせるには、どんな手を使ったらいいのだ? マダムは内心苦笑しながら、ことさらきつい目をして一休に言った。
「覚悟はいいね、坊や」
「はい」一休は、ほっと軽く息を吐き出して、静かに答えた。
再び、吊られる。今度は、逆さに。怖いか、怖くないか、あるいは苦痛か。経験がないから、今はなんともいえぬ。やってみなければ、なんともいえぬ。ただ、どんな状況でも、オレは、いけるとこまでとことんやってやる。その覚悟だけはある・・・。
vol.13 逆さづりで
「さあ、こっちにいらっしゃい」
マダムに促されて、一休は部屋の中央部に向かった。本郷がてきぱきとマットレスを敷いていた。

「マットレスの上に仰向けに寝て。腕は、そうね、今は自由にしてていいけど、身体が引っ張られ出したら、後頭部を守るように、腕を頭の後ろで組んでおくのよ。いいわね」
「はい」
マダムの指示に、一休も真剣に頷いた。頭を床にぶつけでもしたら、非常に危険であることは、経験のない一休にも理解できた。

仰向けになって、不気味につり下がっているチェーンとその先のフックを見つめていた。今から逆さづりされるのだと思っても、恐怖感はなかった。なぜ怖くないのだろう。静かな気分でチェーンを見つめている自分の心境が不思議だった。
かすかな緊張感はある。もし、かなり高くつり上げられたら、そしてまかり間違って真っ逆さまに落下し、頭の打ち所が悪かったり、首の骨を折ったりしたら、最悪の場合、命の危険すらあるだろう。それは承知しているつもりだった。しかし、その最悪の危険性に怯えるよりも、未知の体験を待ち望むようなかすかな緊張感がむしろ心地よかった。
吊られたらどんな感じだろう・・と、今考えている気分は、恐怖というより期待に近かった。ちょっとぞくぞくする感じが恐怖に似ていたとしても、その感覚に不安や不快感はなかった。自分の身体を実験台というか、いわばまな板の上の鯉状態にし、もしそれが辛く苦しいものであったとしても、その体験を楽しんでいる? いや、快感にしてるのか? これは自虐、なのか?
自分の身を無防備にさらし相手の自由にさせること。不安や恐怖を乗り越え、あえて、そうさせること。これが、Mの心境なのかもしれぬ・・。

仰向けでチェーンを見つめている、一休のその静かな表情に、マダムも注目していた。
彼は吊られることを怖がっているのではない。恐れてチェーンを見つめているのではない。静かに、この直前の緊張状態を楽しんでいるのだ。SMはメンタルなプレイである。実際のプレイはもちろんのこと、むしろその直前の心理状況のほうが、より味わい深い。そう。彼はそれをよくわかっているようだ・・。

Mを待たせる時間は重要である。マダムは仰向け状態の一休をしばらく放置し、これから始まる逆さづりの試練をゆっくりイマジネーションさせてから、おもむろにチェーンのフックを手に取り、一休の足枷の環を引っかけ固定した。
いよいよ始まるのだ。一休はマダムの指示を思い出し、頭の後ろで腕を組んだ。軽く息を吐き、その瞬間を待った。

「ゴン、引き上げて」
マダムが簡潔に指示を下す。ぎしぎしとうなり声をあげて、チェーンが徐々に巻き上げられ始めた。それにともなって、一休の足もゆっくり持ち上がっていく。両脚が腰のあたりで直角に折れ曲がるまで持ち上げられ、そしていよいよ腰も浮いてきた。先刻、宙づりにされていたときの苦痛を身体が思い出したのか、さっそく全身が悲鳴を上げ始める。またあの負担は止めてくれと、身体が訴えているようだ。くそっ。まだ始まってもいないのに、弱音を吐くんじゃない。一休は、身体に向かって叱咤した。
vol.14 乳首に爪を立てて
徐々に、体重の負担が足首にかかってくる。上半身が強引に引っ張られだすと、先ほどさんざん痛めていた筋肉がちょっと悲鳴を上げた。こら。これくらい耐えろ。さっきの苦痛に比べれば、腕がもげるかと思ったさっきの苦痛に比べれば、可愛いモンだ・・。なるべく身体全体をリラックスさせて、チェーンの引き上げに身を任すように心がけた。

ゆっくり引き上げられ続けて、とうとう頭も床から離れた。完全に逆さに吊られてみれば、苦痛も思ったほどではなかった。重りに耐えたあとの足首であったはずだが、腕や肩より足腰の方がやはり丈夫にできているのであろう。それに、さっきの苦痛を通り抜けた今となってみれば、ちょっとやそっとの痛みにはもう驚かなくなっているのかもしれなかった。人間の身体が、この逆さの状態に、どの程度の時間、耐えられるのかは知らないが、当分の間は、なんとか持ちこたえられそうだと思った。

「ゴン。あと1メートル・・・・・よし、そこで停止」
マダムの声で、引き上げが止まった。逆さづりの状態で、一休の身体がかすかに揺れている。マダムはちょっと前屈みの体勢で、一休の顔をのぞき込んだ。
「どう、逆さに吊られた気分は? おや、思ったほどではない、といった表情ね。この程度では、痛くもかゆくもない?」
「・・・」一休は無言で苦笑した。

「まあね、なかなか根性のありそうなおまえだ。そう簡単に弱音を吐かないってことはわかっているよ。ゆっくり楽しませでもらうさ」
マダムは余裕の笑みを浮かべて、まだ赤く腫れ上がった一休の尻を、またぺたぺたと手のひらで叩いた。
「さて、服を脱がすのが、本来の目的だったね。もう少し、おまえを高く吊らないと、この位置では脱がせづらいね。ゴン。もうちょっと、引き上げて。・・・そう、そのあたりでストップ」

一休の上半身が、マダムの目の高さぐらいまで引き上げられた。一休は浅く呼吸を繰り返しながら、マダムをじっと見つめている。マダムはそんな一休に微笑んで、頬からあごのあたりを両手で包み込み、愛しげに撫でた。
「いい表情をしているよ。精悍と言ってもいいぐらいだ。できればこの顔をもっと苦痛でゆがめたい。そうやって殉教者のように淡々としているおまえが、苦痛に耐えきれずにあえぎ、涙を流すところをたっぷり見たい。でもゆっくりいこうね。時間をかければかけるほど楽しみもます。まずはおまえを丸裸にしなければ」
マダムは一休のシャツのボタンに手をかけた。ゆっくり時間をかけてひとつひとつボタンを外し、胸をはだけ、まだ若々しい肌を撫でた。

「さて、ただ逆さに吊られただけでは動じないおまえだ。吊られている間、ひとつ約束事を設けよう。おまえならできると思うよ。何があっても、泣き叫んだりしない。いや、おまえなら、泣き叫ぶどころか、うめき声すら殺せるかもしれない。どうだ、簡単だろ?」
一休は、目を見開き、無言で頷いた。マダムに命じられなくても、すでに自ら、無言の行を開始していた。
「よしよし、おりこうさんだね。その調子だ」
マダムは満足そうに微笑むと、また一休の肌をなでさすり始めた。そして小さく突き出た乳首のあたりで、指先がしばし止まる。

「可愛い乳首だねえ。ちょこんと立ってるよ」
マダムは無邪気とも言える表情で一休に微笑みかけ、乳首を軽くつまみ、そして次の瞬間、思い切り爪を立ててつねった。一休は、突然の痛みに内心うっと思いながらも、顔をゆがめることもなく、うめき声の一つもたてることなく、静かに苦痛を飲み込んで、一心不乱と形容してもいいような目つきでマダムを凝視した。意志で封じた声を飲み込むように、かすかにのど仏が動いた。
マダムはそのまま指先にぐいぐいと力を込め続ける。鋭い痛みが数秒、続いた。しかし一休は、けして表情を変えなかった。ただほんの少し、呼吸が荒くなっただけだった。

「いいねえ。なんて魅力的な顔つきをするんだろう、おまえは。その、内心の苦痛を、ひたすらに耐えている目が素敵だよ。おまえの、声には出さない、心の中のうめき声が聞こえてくるようだ。意気地無しが髪振り乱して大げさに叫ぶより、よっぽど切なくていい表情だ。もっともっと、その表情を、私に見せておくれ」
マダムの瞳がつやっぽく潤んで光を増してきた。
vol.15 無言で耐える
たぶん、マダムが声を出すなと命じなくても、一休は声を出さなかっただろう。一休なら、耐えられる限り、ひたすら無言で耐えただろう。でも、SMプレイでは、Sの命令にMが応じるというそのシチュエーションが大事なのだ。だからマダムは一休に、叫ぶな、声を出すな、と命じた。これで一休には、指示に従ってひたすら耐える、という状況が生まれたのだった。

マダムは、先刻の宙づりで痛めた腕に激痛が走るであろうことも承知の上で、ことさら乱暴に一休のシャツをぐいと下に引っ張り、身体からはぎ取った。袖といっしょにむりやり腕が引っ張られて、一休は一瞬、痛みに顔をゆがめた。くそっ。気を抜くな。この程度の痛みに反応してるんじゃない。もっと平然とこらえろ。これはまだまだ序の口だ。このマダムなら、オレが歯を食いしばらなければつい声をだしたくなるような、もっと手荒い歓迎をしてくれるはずだ。脱がされたこの後が本番だ。
深呼吸をひとつ。目は見開いたまま、無言を維持した。

「さあ、すっかり丸裸になったねえ。真っ裸で逆さにつられて、なんとも素敵な姿だよ。ピンクに染まったお尻も魅力的だ」
マダムはほれぼれと一休の全身を眺め、すっと指先を素肌に走らせる。
「でも、なにか寂しいね。おまえの肌は白すぎる。そつがなさ過ぎる。もっと飾りがほしいねえ。さっきお遊び程度にベルトでお尻をぴしゃぴしゃ叩いたぐらいじゃやっぱりものたりない。私は、もっとはっきりした鞭の痕をおまえの身体に刻みたい。一本鞭の生々しい傷跡を、このあたりや、このあたり・・・」
マダムはその傷をイメージするように、一休の身体に具体的に指を這わせた。そして一休に優しくささやきかけた。
「一本鞭の味は強烈だよ。さっきのベルトの比じゃないよ。でも、おまえなら声を出さずに耐えられるかもしれないね。試してみようか。どうだい?」

オレに、聞いてるのか? オレが鞭を受けるかどうかを選択するのか? さあ、なんと答える? ・・・試練を受ける覚悟はある。しかし、自分の口から、そうしてくれと申し出るのか? この、かすかなためらいは何だろう・・・
「どうした? はっきり、鞭がほしいとおねだりするのは、まだ恥ずかしいかい? おまえは、ほんとはMのくせに、Mを認めるのが恥ずかしいのかい?」

ああ、そうか、もしかしたら、そういうことかもしれない。つまらんプライドが邪魔してるのか。さっさと開き直ってしまえ。この際だ。Mにでもなんにでもなって、マダムに血祭りに上げてもらえ。本郷さんのレッスンを受けるために地下に潜ったら、どんなことにも立ち向かう覚悟はできていたんじゃないのか?

「さあ、どうした。欲しいんだろ? ほんとは、身体が期待でぞくぞくしてるんだろ? 正直に、言ってごらん? 鞭をください、と・・」
一休は、一瞬、目を閉じた。・・・ほら。開き直ってしまえ。いけるとこまで、突き進んでしまえ。限界を、見極めろ。
ほっと、大きく息を吐いた。再び、しっかりと目を見開き、ごくりとつばを飲み込んだ。
「・・・鞭を、ください・・・」
「よく、言った。おまえは、ほんと、素直なMになれるよ」
マダムは満足そうににっこりと微笑んだ。
vol.16 たんなる暴力ではない
マダムは飾り棚から、丹念にぎっしりと編み上げた、かなり長めの一本鞭を取り出すと、ゴンに指示して一休の高さを調整した。
「もうちょっと下へ・・・そう、そのあたりで、止めて」
そして改めて、一休の姿をしみじみと眺めた。無防備な丸裸で逆さに吊られ、静かに目を見開いている。なるべくゆったりとした呼吸を心がけているのであろう、胸がひっそりと穏やかに動いていた。
何を考え、何を見ているのか。おそらく、ただ漠然と視界を捉えながら、かすかな緊張感の中で、ただ、その時が訪れるのを待っているのに違いない。
けなげな生け贄。この子を半狂乱にするのは、無理かもしれない。殺す覚悟があればできるだろうが、もちろんそこまで踏み込む気はない。でも、歯を食いしばって耐えながら、思わず流す涙。その可憐な表情は見てみたい。この数日のうちに、そこまでこの子を追い込むことはできるだろうか・・。

マダムは一休に歩み寄り、一本鞭を二本に折り曲げて、まずは軽く、背中を数回叩いた。一休の身体を鞭の痛みに備えさせる、軽い準備運動のようなものだった。一休はもちろん、鞭の衝撃にあわせるように軽く息を吐きながら、表情を変えることなく淡々と鞭を受けている。それでもほんのり、背中が赤くなった。
マダムの手がいったん止まる。気配の変化を感じたのか、一休が軽く首を持ち上げるようにしてマダムと視線をあわせた。
マダムは一休に軽く微笑みかけ、そして次の瞬間には鋭い目つきに変わった。
「さあ、これからが本番だよ。一本鞭の味をたっぷりおまえの身体にたたき込んであげよう。おまえはけっこうがんばり屋のようだから、容赦はしない。いいかい、けっして声を出すんじゃないよ。歯を食いしばって耐えてみせな」
「はい」一休は小声で、でもはっきりとつぶやいた。

マダムが距離をとった。まず、鞭の感触を試すように、床に数回、叩きつけた。その鋭い鞭音に、たいていの(これから鞭打たれる)人間は、怯えの表情を浮かべるものだが、マダムは一休を、鞭音ぐらいで怯えるとは思っていなかった。だからこれは演出ではなく、鞭を実際に身体に当てる前の、自分自身の肩慣らしだった。

わりと軽めのSMプレイなどで使われるバラ鞭は、力が分散されて身体に当たるために、派手な音のわりには痛みは少ない。だから素人にも扱いやすい鞭といえよう。しかし、一本鞭の場合は、すべての力が鋭い一本に集中し、遠心力で身体にまとわりつき、時に皮膚を切り裂く。十分に凶器にもなりうる。だからこそ、鞭の当て方にも技術を要する。鞭先が与えるダメージが一番大きいことを把握しつつ、鞭の動きをコントロールしなければならないのだ。

マダム自身、一本鞭をその身に受けたことがある。マダム自身はMではないが、まだ若い頃、ある財界の大物に、ぜひにと請われてプレイに応じた。その大物は、興味本位でやってみたかっただけの人間だから、めくらめっぽうに鞭を振り回し、マダムはさんざんな目にあった。しかしそれもある意味、いい経験だったと思っている。相手に与えるダメージをまったく把握していない素人ほど怖いものはないということを身にしみて思い知り、それ以降は、道具を扱うテクニックの習得にも神経を使うようになった。
そしてまた、Mの痛みを分かっていてこそ、心の通ったプレイができるというものだ。Sが自分の痛みを理解してくれている、とMが感じてこそ、SとMの信頼関係も成り立つ。その点で、SMは、たんなる暴力や残虐行為とは違う。少なくともマダムは、SMをそう捉えている。
vol.17 一本鞭の痛み
マダムが床に鞭を叩きつける、その鋭い音が、一休の耳にも届いた。マダムの表情に気迫を感じた。その表情で、鞭を床に叩きつける、その行為が、単なるパフォーマンスでないことを理解した。ああ、まさに、いよいよ本番だ、と一休は思った。そうだ、これは真剣勝負のようなものだ・・過去、実父の実篤から真剣で切られた日のことが、ふと頭を過ぎった。

マダムの瞳がますます鋭さを増した。一休の背中に狙いを定め、大きく息を吐く。
「さあ、いいかい。一切、手は抜かないよ。おまえが耐えきれずに悲鳴を上げるまで、あるいはおまえがみごと声を殺したとしても、そのおまえの肉体がもう耐えられそうもないと私が判断するまで、鞭をお見舞いするからね。いくよ!」
一休は無言のまま、強い視線だけで頷いた。マダムが鞭を構えた。

鞭が空気を切り裂いて飛び、次の瞬間、肉に鋭く切り込むような、しびれるような痛みが一休を襲った。
一休は声を上げなかった。いや、正確に言うと、声が出なかった。悲鳴を押し殺したのではない。苦痛が激しいと、声すら出ないものだとわかった。

たった一度の打撃で、皮膚はみるみる間に赤く腫れ上がり、鞭が食い込んだその痕をまさに身体に刻み込むように、くっきりとみみず腫れが浮き出てくる。その皮膚の変化は一休自身には見えないものの、痛みの余韻は十分脳に伝わった。これが一本鞭の味か。確かにはんぱじゃない。まだじんじんと響く痛みをこらえながら、一休はマダムを見つめた。

「痛すぎて、声も出ないんだろう? でも、二発目、三発目と続くうちに、普通の子なら、無我夢中で鞭を避け、絶叫しだす。さあ、おまえはどうだろうねえ。声を出さずに耐えきれるかねえ。何発ぐらい、耐えられるかねえ。楽しみだよ」
マダムが目を輝かせて、再び鞭を構えた。

鞭が身体に襲いかかる。うなりをあげて鋭く食い込み、巻きつき、皮膚を、肉を、まさに痛めつける。最初の一撃では声すらでなかったが、何度も繰り返し襲ってくる痛みに、さすがに悲鳴を上げたくなった。鞭が襲いかかる直前には、その痛みをできれば逃れたく、身をよじりたくなった。鞭を受けるたびに、もう次はごめんだ、もうこの痛みには耐えられない、と、正直思った。しかし、一休は歯を食いしばり、ほとんど本能的な身体の反応を、必死の思いで押さえつけた。
くそっ。痛みに負けるな。逃げるな。立ち向かえ。何度でも、恐れず、真正面から、受け止めろ・・。

背中に、脇腹に、下腹部に、尻に、太腿に、何本も、何本も、赤々と、痛々しいみみず腫れが浮き出てきた。次第に増える内出血への反応か、全身が熱っぽくなってきた。しかし一休は、まだ、悲鳴を上げない。
悲鳴を上げるまで鞭が続くとマダムに言われた。言い換えれば、悲鳴を上げれば、一本鞭の試練は終わるということだ。もう耐えられないと思ったら、とりあえず悲鳴を上げればいいということだ。だからこそ、一休は、歯を食いしばって、自らの手のひらに爪を食い込ませるほどの必死の思いで、声を殺している。なぜそこまでして耐えているのか、自分自身もよくわからない。もうちょっと、もうちょっと、あと一本、次の一本、と思いつつ、じりじりと時間を稼いでいた。

何度も鞭をふるいながら、マダムは、一休の痛みへの強さに内心舌を巻いていた。一休はけして鞭を避けようとしない。もちろん、痛みに鈍感なのではない。鞭が当たる瞬間には敏感に反応し、かすかに身を震わせながらも、歯を食いしばって耐えている。両手をぐっと強く握りしめ、かすかに顔をゆがめ、意識的な呼吸で痛みを制御しようとしながら、ただ一心に耐え続けている。たいした根性だ。しかし、このままでは長引くだけだ。プレイも単調になってしまう。別のアプローチが必要かもしれない、と、マダムも思い始めていた。
vol.18 決死の覚悟
鞭の手を休めて、マダムは一休に声をかけた。
「ジョン、生きてるかい?」
「はい!」
荒い息の中で、自分に気合いを入れるように、一休は叫んだ。痛みを乗り越えるのに必死で、ほとんど反射的に叫んだのかもしれないが、まるで怒鳴り返すようなその勢いに、マダムは思わず微笑んだ。
実際、その声は、たとえば剣道場で、まだ腕が未熟だった頃の一休が、何度も実篤に倒されながら、なおも起き上がり、気合いを入れ直して実篤に挑みかかるときのかけ声に似ていた。
「おや。ずいぶん元気に声は出るようだね。おまえが、ちっとも悲鳴を上げないから、失神でもしちまったかと思ったよ。・・だいぶ、身体に素敵な模様が増えたね。ぞくぞくするほどチャーミングな姿になったよ。でも、この体勢のままだと、私の一番好きなところがなかなか狙いにくいね。ちょっと、吊り方を変えることにしよう。いったん、下までおろす。坊や、意識はしっかりあるだろうね? 自分で自分の頭を守れるね?」
「はい!」
一休は、再び叫んだ。

「ゴン、おろしておくれ!」
マダムの声に本郷が頷く。チェーンが再びぎしぎしと動きだし、一休の身体がゆっくり下がり始めた。全身の痛みをこらえ、まだかすかに震える腕で頭の後ろを抱えるようにして、一休は、頭の着地に備えた。

一休の上半身がマットレス上に仰向けになったところで、マダムはいったんチェーンの動きを停止させる。そして足枷をひとつだけフックから外し、もう片脚は再び可能な限り引き上げられた。これで一休は、片脚だけをほぼ直角にチェーンに引っ張り上げられた状態で仰向けに寝かされることになった。
この状態で、どこが一番無防備になるか、マダムが狙いたかったところはどこか、一休にとってはあまりにあからさまだった。今まさに、無防備にさらされている、その部位自身が敏感に感じていた。これはやはり、オレの、股間、か・・・。一休と目が合い、マダムはうっとるするような表情で微笑んだ。そして、片足を高く上げ、股間を無防備にさらした一休の姿を、しばしじっくりと堪能した。一休がある程度予想していることは承知の上で、マダムはまるで一休をじらすように、のんびり眺めている。

一本鞭が股間をダイレクトに襲う。内股のあたりもけっこうヤワなはずだ。かなりきつい仕打ちになる。
片脚を上げ、マダムにその敏感な部分をさらしながら、一休は次の試練に向かって覚悟を決めつつあった。それと同時に、一休は、さっきの一本鞭、その最初の一発が、なぜあんなに痛かったのだろうと考えていた。
オレの身体はもっと鋭い痛みを知っているはずだ。真剣で皮膚を何度か切り裂かれたこともある。それなのに、さっきほど痛くなかったように思う。おそらくあのとき、真剣に向かっていたときは、まさしく決死の覚悟であった。真剣にはそれほどの凄みがあった。相対するには、その凄みに負けない覚悟が必要だった。その覚悟の強さがあったから、痛みを乗り越えられた。

マダムが最初に一本鞭を構えたとき、せっかくオレは、その真剣勝負をふと思い出したというのに、そのインスピレーションをすんなりやり過ごしてしまった。その意味をもっと深く考えなかった。そしてオレはたぶん、鞭の痛みを甘く見ていた。まだまだ決死さが足りなかった。だから予想外の痛みに驚いたのだ。
マダムが鞭を構えたら、それは真剣と思うのだ。そして決死の覚悟で受け止めるのだ。そうすれば、痛みもさほどではない。たぶん、乗り越えられる。
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